建物の減価償却方法はどう決まるのか ― 定額法・定率法の違いと、建築計画で見落とされがちな実務上の前提 ―
事務所ビルや商業施設、ホテル、医療施設などの事業用建物を建設・取得する際、多くの発注者は建設費や工期、立地条件には強い関心を持ちます。一方で、その建設費をどのように減価償却していくのかについては、設計や施工が進んだ後に初めて意識されることも少なくありません。
しかし、建物の減価償却方法は単なる会計処理の問題ではなく、長期的な事業収支、資金繰り、さらには金融機関の評価にも影響を与える重要な前提条件です。本記事では、現行の日本の税制に基づき、建物の減価償却方法がどのように定められているのかを、実務視点で整理します。
減価償却とは「建設費を分割して回収する仕組み」
減価償却とは、建物や設備などの固定資産について、取得に要した費用を一度に経費化するのではなく、法定耐用年数に応じて複数年に分けて費用計上する仕組みです。建物は長期間使用される資産であるため、その価値の減少を毎年の損金として配分することで、事業の実態に即した損益計算が行われます。
特に数億円規模になる事業用建物では、減価償却費の計上方法によって、完成後数年間の利益水準や税負担の見え方が大きく変わります。そのため、減価償却は「建設後に考える話」ではなく、「建築計画の前提条件」として整理すべき項目です。
建物の減価償却方法は2つに分類される
税務上、固定資産の減価償却方法は大きく「定額法」と「定率法」の2つに分類されます。ただし、ここで注意すべきなのは、すべての資産に両方の方法が選択できるわけではないという点です。
現行の日本の税制では、建物本体については明確な制限が設けられています。
現行税制における建物本体の取扱い
法人税法および所得税法の改正により、2016年(平成28年)4月1日以降に取得した建物本体については、減価償却方法は定額法のみと定められています。つまり、現在新たに建設・取得する建物については、定率法を選択することは制度上できません。
このため、事務所ビル、商業施設、ホテル、医療施設など、近年計画されるほぼすべての建物本体は、定額法によって減価償却されることになります。実務上も、この点は明確なルールとして運用されています。
なぜ「原則として定額法」と表現されるのか
実務や解説記事で「建物本体は原則として定額法」と表現されることがありますが、これは例外的に定率法が適用されている建物が存在するためです。ただし、この例外は新規建築や新規取得に関するものではありません。
定率法が適用されている建物は、2016年3月31日以前に取得された既存資産に限られます。当時の税制では、建物本体についても定額法または定率法を選択することが認められており、その経過措置として、現在も定率法で償却が継続されている建物が存在します。
重要なのは、これは「過去に取得した建物に対する経過的な取扱い」であり、現行制度下で新たに選択できる例外ではないという点です。
建物附属設備・構築物との違い
建築実務においてもう一つ重要なのは、建設費のすべてが建物本体として扱われるわけではないという点です。空調設備、給排水設備、電気設備などの建物附属設備や、外構・駐車場といった構築物については、建物本体とは異なる資産区分となり、定率法または定額法を選択できる場合があります。
この区分の仕方によって、減価償却のスピードや初期のキャッシュフローに差が生じるため、設計段階・見積段階から整理しておくことが重要です。
建築計画段階で意識すべき実務上のポイント
減価償却は税理士や会計担当に任せるものと考えられがちですが、実際には建築計画と密接に関係しています。用途によって設備比率は大きく異なり、オフィス、ホテル、医療施設では必要となる設備構成も変わります。
また、将来的な売却や用途変更を想定する場合、どの部分がどのように償却されているかは、資産評価にも影響します。設計・建設・事業計画を切り離して考えるのではなく、減価償却を含めた全体像として整理することが、リスクを抑えた建築計画につながります。
減価償却は建築前に整理すべき前提条件
現行の税制における建物本体の減価償却方法は明確です。
2016年4月1日以降に取得した建物本体は定額法のみが適用され、定率法を選択することはできません。定率法が適用されている建物は、2016年3月31日以前に取得された既存資産に限られます。
減価償却は完成後の会計処理ではなく、建築計画そのものに影響する重要な要素です。建設費を「どう使うか」だけでなく、「どう回収していくか」まで含めて検討することが、事業として成立する建築計画の前提となります。
【免責事項】
本記事は、建設マネジメントの観点から減価償却の基本的な 仕組みを整理したものです。
・個別の税務処理については、必ず税理士等の専門家にご相談ください
・税制は改正される場合があります ・具体的な適用については国税庁または税務署にご確認ください


