【ホテルリノベーション完全ガイド】改修コストの目安と設計で失敗しないためのポイント
観光需要の回復とともに、既存ホテルの再生・リニューアルが全国で進んでいます。
老朽化や設備更新を目的とした改修だけでなく、
時代のニーズに合わせてブランド再構築や客層転換を目的としたリノベーションが増えています。
しかし、ホテルのリノベーションは一般的な建物の改修とは異なり、
建築・設備・運営のすべてが複雑に絡むプロジェクトです。
コストを正確に把握しないまま進めると、予算オーバーや営業停止期間の長期化といったリスクにつながります。
本記事では、ホテルリノベーションを計画する際に押さえておくべき
コストの目安・設計上の注意点・成功のためのポイントを詳しく解説します。
1. ホテルリノベーションの目的を明確にする
リノベーション計画の第一歩は、**「なぜ改修を行うのか」**を明確にすることです。
目的によって、必要な工事範囲・コスト・スケジュールは大きく変わります。
| 改修タイプ | 主な目的 | 代表的な工事内容 |
|---|---|---|
| 老朽化対応型 | 設備更新・耐震補強 | 配管更新、内装・空調リニューアル |
| デザイン刷新型 | ブランド再構築・客層変更 | 客室内装改修、共用部リニューアル |
| コンバージョン型 | 用途転換・新機能導入 | オフィス・商業施設→ホテル転用 |
| 省エネ・環境対応型 | ZEB化・補助金活用 | 高効率設備・断熱改修・太陽光設置 |
👉 改修の「狙い」を設計初期に共有しておくことで、
後戻りのない効率的な設計・見積りが可能になります。
2. 改修コストの目安
ホテルのリノベーション費用は、規模・グレード・工事範囲によって変動します。
一般的な目安は以下の通りです。
| 規模・タイプ | 坪単価(目安) | 主な改修内容 |
|---|---|---|
| ビジネスホテル(中規模) | 約80〜120万円/坪 | 客室改装、共用部改修、空調更新 |
| シティホテル(中〜大規模) | 約120〜180万円/坪 | 内装全面改修、設備・防災更新 |
| リゾートホテル(大型) | 約150〜250万円/坪 | 外装・浴場・共用エリア含む全面改修 |
※工事規模や営業継続の有無によって費用は前後します。
また、**営業しながら工事を行う“営業併用改修”**の場合、
騒音・動線・安全対策が必要になるため、通常より10〜15%ほどコストが上昇します。
3. 設計段階で注意すべき3つのポイント
① 法令・用途変更の確認
ホテルは「旅館業法」「建築基準法」「消防法」など複数の法令に基づき運営されています。
改修範囲が防火区画や用途に関わる場合、建築確認申請や保健所届出が必要です。
早期に行政協議を行うことで、設計変更や工期遅延を防ぐことができます。
② 設備の更新計画を最優先に
外観・内装のデザインよりも、まず優先すべきは設備インフラの更新です。
老朽化した配管や空調を残したまま内装だけ更新すると、
数年後に再工事が必要になるケースが多く、結果的にコストが倍増します。
③ 運営を止めない設計計画
ホテルリノベーションでは、営業継続しながら工事を進めるケースが増えています。
そのため、工事区画・動線・仮設計画を慎重に検討し、
宿泊客の安全と快適性を確保することが重要です。
4. デザイン刷新で収益性を高める
ホテルリニューアルでは、単なる「見た目の改善」ではなく、
収益改善を目的としたデザイン戦略が求められます。
ターゲット層の再設定:ビジネス→観光客、またはその逆
共用部の活用:カフェ・コワーキング・イベントスペース化
客室の多様化:ファミリー対応・長期滞在型ルームの導入
たとえば、客室1室あたりの平均単価を3,000円上げるだけでも、
年間数百万円規模の売上増加が期待できます。
このように**「デザイン=投資効果を生む装置」**として設計を考えることが重要です。
5. コストを抑えるための工夫
リノベーション費用を抑えながら品質を維持するには、
次のような工夫が効果的です。
既存設備や構造を再利用して解体費を削減
部分改修(客室・共用部を段階的に実施)で費用分散
**VE(Value Engineering)**を活用し、必要機能を確保した上でコスト最適化
補助金・税制優遇制度の活用(省エネ改修・耐震補助など)
特に、省エネ改修を含む場合は「ZEB Ready」「省CO₂補助金」など
国の支援制度が利用できるケースもあります。
6. リノベーション成功の鍵
ホテルのリニューアルを成功させるには、
“どこを残し、どこを変えるか”の見極めが最も重要です。
構造・設備の更新で「長寿命化」を図る
デザイン刷新で「ブランド価値」を高める
工事中の運営計画で「売上の継続性」を確保する
これらの要素をバランス良く設計に落とし込むことで、
コストを抑えつつも“泊まりたくなるホテル”を再生できます。
ホテルリノベーションは、
単なる修繕ではなく投資効果を伴う戦略的な再構築プロジェクトです。
改修目的を明確にし、計画初期から費用を可視化する
設備・法令・運営のバランスを取った設計を行う
既存資産を活かしながらコストを最適化する
補助金・税制優遇を活用して投資回収を早める
👉 「美しく、強く、収益を生むホテルへ」
これが、これからのホテルリノベーションに求められる本質です。


