【商業施設の地盤調査 完全ガイド】調査費用とスケジュールの実際|ボーリング本数の目安・ロット分け・工程への組み込み
商業施設の建設コストと工期を左右する最大の“不確定要素”が地盤です。
「ボーリングは何本必要?」「調査費はいくらかかる?」「基本設計や造成工程にどう組み込む?」――この3点を先送りすると、後工程で杭長の増大・改良量の増加・仮設費の膨張が連鎖し、数千万円規模のコスト超過につながります。
本記事では、調査費用の相場・ボーリング本数の決め方・ロット分け(分割調査)・工程への落とし込みを、商業施設向けに実務的に解説します。
1. まず押さえるべき「地盤調査の全体像」
商業施設(物販・飲食・物販+サービス・ドラッグストア・ロードサイドSC 等)では、以下を組み合わせて段階的にリスクを絞り込みます。
机上調査(地歴・地形・既往ボーリング・液状化ハザード)
公共DBや地形図で旧河道・盛土・埋立・扇状地といった“危ない地名”を抽出。原位置試験(SWS/動的コーン・平板載荷・地表踏査)
表層のばらつきを素早く把握。造成厚みや舗装設計の初期検討に有効。ボーリング+標準貫入試験(N値)+サンプリング(室内土質試験)
支持層深度・土質・地下水位を確定。**基礎形式(直接/改良/杭)**の判定の要。必要に応じて:PS検層、透水試験、CPT、GPR(地中障害探査)、土壌汚染フェーズ1/2 など。
2. 調査費用の目安(商業施設スケール想定)
規模・立地・到達深度で変動しますが、概算の“勘所”は次の通りです(税別・搬入経費等込みの感覚値)。
| 項目 | 目安費用 | 備考 |
|---|---|---|
| 机上調査・地歴整理 | 10~30万円 | 図面化・ハザード整理含む |
| SWS・原位置軽微試験(10~20点) | 20~60万円 | 表層確認・造成厚み推定 |
| ボーリング(~GL-20m級) | 25~40万円/本 | N試験・簡易サンプル込み |
| ボーリング(GL-30~40m級) | 40~70万円/本 | 杭想定・深層確認 |
| 室内土質試験(含水比・粒度・一軸 等) | 5~15万円/本 | サンプル数で増減 |
| PS検層・透水試験 | 10~30万円/孔 | 必要性は地質条件次第 |
| GPR・地中障害探査(面的) | 30~150万円 | 既存杭・埋設管の事前検出 |
ポイント:ボーリング1本の節約が、後で“杭長+3m×本数”という逆襲になりがち。初期は“少なすぎず”が鉄則です。
3. ボーリング本数の決め方|「敷地形状×建物配置×支持層ばらつき」
本数は建物規模・長辺方向のばらつき・支持層深度の不確実性で決めます。一般的な目安は――
小規模(店舗単棟・延床~2,000㎡):3~4本(四隅+中央)。支持層が浅く均質なら3本でも可。
中規模(ロードサイド型・延床2,000~5,000㎡):4~6本(長辺方向に等間隔)。駐車場区画で表層改良厚の差も見る。
準大型(複合・延床5,000~10,000㎡):6~9本(主棟グリッド+外構重要部)。PS/CPTの補助を併用。
大型SC・モール(延床1万㎡超):9~12本+補助試験(ゾーンごとに最低2~3本)。分棟・テナントミックスに応じてゾーニング。
原則:
四隅+中心は必須。
長辺方向の1/3~1/2ピッチで増し本。
地形変化(埋立境・盛土端・旧河道)に追加1~2本。
杭前提なら支持層に1~2m以上の貫入確認を確実に。
4. ロット分け(分割調査)の考え方|“危ないゾーン”から先に潰す
着工を見据えると、全域を一気にやるより、優先エリアから着手するほうが合理的なことも多いです。
ロットA(主棟・基幹テナント):先行確定 → 基礎形式・杭仕様をFIX → 設計・見積精度UP
ロットB(立体駐車場・外構):表層改良・路盤厚・排水ルートの決定
ロットC(増築・将来区画):机上+軽微試験で一次判断 → 本施工前に詳細化
メリット
基幹コスト(杭/改良)を早期に固められ、VEの当たりが付く
工区を分けて造成/杭/基礎を先行施工でき、全体工期を短縮
既存埋設・地中障害のリスクを早期顕在化(配管回避・迂回計画が引ける)
5. スケジュール:工程への組み込み(標準モデル)
地盤調査は設計初期~基本設計の前半に完了させ、杭・改良の概算見積に反映させるのが王道です。下表は単棟~中規模SCの標準感覚。
| フェーズ | 期間目安 | 主な作業 | 連動タスク |
|---|---|---|---|
| 企画・机上調査 | 1~2週 | 地歴・既往ボーリング収集、ハザード確認 | ボリュームスタディ、造成概略 |
| 業者選定・準備 | 1~2週 | 見積・工程調整、占用/掘削許可、埋設確認 | 設計者が孔位置をプロット |
| フィールド調査 | 1~2週 | SWS、ボーリング3~6本(小~中規模) | 立会い、仮説VE検討 |
| 室内試験 | 1~2週 | 含水比・粒度・一軸・圧密 等 | 基礎形式の当たりづけ |
| 中間速報 | 3~5日 | 支持層深度・地下水速報 | 杭/改良の概算見積に反映 |
| 最終報告 | 1週 | 土質総括・設計地盤定数・推奨工法 | 基本設計の確定/見積更新 |
注意:占用許可・重機搬入路・夜間作業制限があると準備に+1~2週間。繁忙期はボーリング機の確保がボトルネックになります。
6. 工程・コストを守るための「実務5箇条」
孔位置は構造グリッド上に置く
→ 施工段階の杭芯に近い情報が取れ、ばらつき評価が明確。地下水位は季節差を考慮
→ 雨期と渇水期で大きく変動。ポンプアップ・止水計画の初期からの織込み。既存杭・地中障害はGPR+試掘で“面と点”の両取り
→ 撤去・躱しの判断を設計段階で。改良想定なら“試験施工+室内試験”で配合と改良体積を固める
→ 数量差・出来形不適合を予防。道路占用・近隣調整は工程前倒し
→ 搬入経路・騒音振動ルールを見積条件書に明記して追加精算を防ぐ。
7. 代表ケース別:ボーリング本数と到達深
ロードサイド単棟(平屋~2層、延床~2,000㎡)
本数:3~4本/到達:支持層+2m。舗装・外構はSWS補助。区画整理地の複合(延床5,000㎡級)
本数:6~8本/到達:GL-20~30m(杭前提)。PS/CPTで補強。埋立・湾岸(液状化懸念)
本数:6~9本+粒度・液状化判定/到達:GL-30~40m。既存建替(地中障害多)
本数:5~7本+GPR面探査+試掘。到達は旧支持層を突き抜けて確認。
8. 見積り精度を上げる「アウトプット仕様」
報告書は“読むため”でなく設計に使うための仕様に。最低限、以下を要求しましょう。
設計用地盤定数(N・cu・E・φ・c の採用根拠)
推奨基礎形式・想定杭長(レンジ提示)
改良厚・改良体積の算定根拠(各ゾーン別)
液状化判定と床レベル・機器据付のBCP示唆
地下水・湧水対応(ピット・止水・排水計画の前提条件)
これが揃えば、VE(Value Engineering)や発注前の数量精度が一気に上がります。
“1本のボーリング”が数千万円の差を生む
調査費は数十万~数百万円でも、杭・改良・仮設の意思決定を左右する“最上流の投資”。
四隅+中央を基本に、地形・旧地盤の境界で増し本。
ロット分けで基幹コストを先に確定し、工程を前倒し。
工程は準備2週+現地1~2週+試験1~2週+報告1週が標準感覚。
報告書は設計に効く仕様で要求し、VEと見積り精度を上げる。


