中小ビルオーナー必見!
BCP(事業継続計画)対応で押さえるべき最新ポイント

「大地震が発生した場合、ビルが使用できなくなり、テナントの事業や入居継続に影響するのではないか」

「BCPを考慮したビルにしたいが、建設・改修時に何を設計へ組み込めばよいか分からない」

「耐震・防災・省エネ設備の導入に、補助金や税制優遇を活用できるのか知りたい」

近年は、地震、風水害、停電、通信障害、感染症など、事業活動に影響するさまざまなリスクへの備えが求められています。

テナント企業が入居先を検討する際にも、建物の耐震性、非常電源、通信環境、浸水対策などが確認項目となる場合があります。こうした性能は、テナント誘致や建物の市場評価に影響する可能性があるため、ビルオーナーにとっても重要な経営課題の一つです。

ただし、「BCP対応ビル」という言葉に、一般のオフィスビルへ一律に適用される法的基準や統一された設備仕様があるわけではありません。建物内で継続させる業務、目標とする復旧時間、必要な電力・通信・給排水機能などを整理し、建物ごとに必要な機能継続水準を設定することが重要です。

本記事では、中小ビルの建設・改修を検討しているオーナー・発注者向けに、BCPを考慮した建物計画のポイント、設備導入時の注意点、支援制度、CM方式の活用方法について解説します。

1.BCPとは?中小ビルオーナーが理解すべき基本

BCPとは「Business Continuity Plan」の略称で、日本語では「事業継続計画」と呼ばれます。災害や緊急事態が発生した際に、事業への影響を抑えながら重要業務を継続し、停止した場合にはできる限り早く復旧するための計画です。

BCPは、非常用発電機や蓄電池などの設備を設置するだけで完成するものではありません。まず、テナントやビル管理者が災害時に維持する機能を明確にし、それに合わせて建築・設備面の対策を計画する必要があります。

ビルオーナーが整理すべき主な項目
項目検討内容
想定する災害地震、洪水、高潮、停電、通信障害、感染症など
継続する機能防災センター、通信、セキュリティ、給排水、共用照明など
継続時間外部からの電力・燃料・水の供給が復旧するまでの想定時間
復旧目標どの設備を、いつまでに、どの程度まで復旧させるか
利用者テナント従業員、来館者、ビル管理者、地域住民など
運用体制点検、訓練、燃料補給、緊急連絡、設備操作の担当者

ビルオーナー側の計画とテナント企業側のBCPをすり合わせ、建物に求める性能を決めることが出発点です。

2.中小ビルのBCPで確認すべき5つのリスク

リスク① 地震による建物・設備の損傷

地震によって建物の構造体が損傷すると、立ち入りや継続使用が困難になる可能性があります。

また、構造体に大きな損傷がなくても、天井、外壁、設備機器、配管、エレベーターなどが被害を受ければ、業務を継続できない場合があります。

主な確認事項
  • 旧耐震基準に該当する可能性がある建物か
  • 耐震診断を実施しているか
  • 必要な耐震補強を行っているか
  • 天井・外壁などの非構造部材に落下リスクがないか
  • 受変電設備、空調機、給水設備などが固定されているか
  • 配管・配線に変位を吸収できる対策があるか
  • エレベーターの地震時管制運転や復旧体制が整っているか

一般に、1981年5月31日以前に建築確認を受けた建物は、旧耐震基準に該当する可能性があります。

ただし、建築確認の日付だけで耐震性能を判断することはできません。増改築履歴、構造、劣化状況なども含め、専門家による確認が必要です。

新築建物は現行の耐震基準に適合させる必要がありますが、建築基準法に適合しているだけで、大地震後の即時使用や事業継続が保証されるわけではありません。BCP上必要な性能に応じて、構造体の目標性能だけでなく、非構造部材や設備機器の耐震性も検討します。

リスク② 停電による建物機能の低下

停電が発生すると、非常電源や蓄電池に接続されていない設備が停止し、建物機能が大きく制限される可能性があります。

停止する可能性がある設備

  • 空調設備
  • 一般照明
  • エレベーター
  • 給水ポンプ
  • 通信設備
  • 入退室管理設備
  • 防犯設備
  • テナントの業務機器

BCP用の非常電源を計画する際は、すべての設備を稼働させるのではなく、継続する設備を選定し、必要な電力を計算します。

非常用発電設備の容量や運転時間は、テナントの重要業務、停電想定、目標復旧時間、燃料補給の可否などを踏まえて設定します。防災拠点や公共施設などでは72時間の自立運転を参考にする例もありますが、一般の中小オフィスビルへ一律に適用される基準ではありません。

リスク③ 通信・情報インフラの断絶

クラウドサービス、オンライン会議、IP電話、入退室管理などを利用するビルでは、通信障害が事業継続に大きな影響を与えます。

主な対策
  • 異なる通信事業者による回線の確保
  • 光回線とモバイル回線など、異なる通信方式の併用
  • 主回線と予備回線の引込ルートの分離
  • ルーター、ONU、サーバーなどへのUPS設置
  • 通信設備を非常用電源の対象とする
  • 衛星通信端末やモバイルルーターを設置できる場所の確保
  • 予備配管や通信スペースの確保

UPSは、長期間にわたって建物全体へ電力を供給する設備ではありません。

瞬間的な停電への対応、発電機が起動するまでの電源確保、サーバーや通信機器の安全な停止など、用途を明確にして容量を設定します。

リスク④ 浸水・水害による設備停止

地下や低層階に受変電設備、非常用発電機、通信設備などが設置されている場合、浸水によって建物全体の機能が停止する可能性があります。

国土交通省のガイドラインでは、設定した浸水深を踏まえて、電気設備を浸水リスクの低い場所へ配置することや、止水板・防水扉などを組み合わせる考え方が示されています。

主な対策
  • 洪水・内水・高潮・津波ハザードマップの確認
  • 想定浸水深を踏まえた設備位置の設定
  • 受変電設備や非常用発電設備の上階配置
  • 既存設備のかさ上げ
  • 止水板・防水扉の設置
  • 防水区画の形成
  • 排水ポンプの設置
  • 排水管への逆流防止対策
  • 雨水貯留設備の検討
  • 電気・通信配線貫通部の止水

「必ず2階以上に設置する」という一律の基準ではありません。

想定浸水深、建物用途、敷地条件、設備重量、地震時の安全性などを考慮し、浸水リスクの低い位置を選定します。

リスク⑤ 断水・衛生機能の停止

停電や断水が発生すると、トイレ、手洗い、給水などが使用できなくなる場合があります。中小ビルのBCPでは電力や通信に注目しがちですが、一定期間の滞在を想定する場合は、水と衛生設備の検討も必要です。

主な確認事項
  • 受水槽に確保できる水量
  • 飲料水と雑用水の必要量
  • 給水ポンプを非常電源の対象とするか
  • 停電時のトイレ使用可否
  • 携帯トイレなどの備蓄
  • 給水車から受水槽へ接続できるか
  • 排水設備が使用できない場合の対応

3.建設・改修時に検討すべきBCP関連設備

BCP関連設備は後から追加できるものもありますが、設置場所、構造荷重、配管・配線、排気ルートなどを建設・大規模改修時に検討することで、施工上の制約を減らせる場合があります。

ただし、導入すれば必ず事業を継続できるわけではありません。必要な機能、運転時間、維持管理方法を含めて計画する必要があります。

(1)非常用発電設備

非常用発電設備を計画する際は、容量だけでなく、対象負荷と運用方法を明確にします。

確認項目内容
対象負荷通信、セキュリティ、給水ポンプ、共用照明など
必要容量定常負荷に加え、モーター等の始動電流も考慮
運転時間目標とする機能継続時間に基づいて設定
燃料備蓄量、劣化管理、補給方法、供給契約を確認
設置場所浸水、地震、火災、騒音、振動を考慮
排気・換気排気経路、給気、周辺環境への影響を確認
維持管理定期点検、試運転、負荷試験の方法を設定

建築基準法上の非常用照明や、消防用設備に必要となる非常電源は、建物の用途・規模・設備内容に応じて設置が求められます。

これらは避難や消防活動などを目的とした法定設備であり、テナント業務の継続を目的とするBCP電源とは、必要な負荷、容量、運転時間が異なる場合があります。

(2)太陽光発電・蓄電池

太陽光発電と蓄電池は、平常時の電力使用量削減と、停電時の電源確保を両立できる可能性があります。ただし、太陽光発電設備を設置しただけでは、停電時に建物内で電気を使用できないシステムもあります。

主な確認事項
  • 停電時に自立運転できるシステムか
  • 停電時に給電する負荷を分離しているか
  • 蓄電池容量と出力が必要負荷に対応しているか
  • 屋根の積載荷重や防水性能に問題がないか
  • パワーコンディショナーなどを浸水リスクの低い位置に配置しているか
  • 太陽光発電、蓄電池、非常用発電機をどのように連携させるか
  • 消防・避難・保守点検上の動線を確保しているか

太陽光発電は天候や時間帯によって発電量が変動するため、非常用発電機を完全に代替できるとは限りません。

(3)耐震診断・耐震補強

旧耐震基準に該当する可能性がある建物では、耐震診断を行い、現在の耐震性能を確認します。耐震性能が不足している場合は、建物条件に応じて補強方法を検討します。

主な方法概要
鉄骨ブレース建物に鉄骨の斜材を追加して水平耐力を高める
耐震壁鉄筋コンクリート壁などを増設する
柱・梁の補強鋼板、繊維、コンクリートなどで既存部材を補強する
制振補強ダンパー等を設置して地震時の揺れを低減する
免震レトロフィット建物に免震装置を追加する大規模な改修方法

適切な工法は、建物の構造、劣化状況、敷地条件、テナントの営業状況、予算などによって異なります。稼働中の建物で改修する場合は、工区分け、仮設動線、騒音・振動対策、停電計画なども重要です。

(4)通信インフラの冗長化
対策建設・改修時の検討事項
複数の通信回線異なる事業者・回線方式を検討
引込ルートの分離同一箇所の断線で両回線が停止しないよう確認
通信設備用UPS必要なバックアップ時間と負荷を設定
非常電源との接続ルーター、ONU、共用Wi-Fi等の対象を設定
予備配管将来の回線増設に備えてルートを確保
衛星通信設置スペース、空への見通し、電源を確認

通信事業者が異なっていても、建物への引込ルートや上位回線が共通している場合があります。契約先だけでなく、物理的な経路も確認する必要があります。

(5)防水・浸水対策
対策主な確認事項
止水板高さ、設置箇所、保管場所、設置人員を確認
防水扉日常動線、避難、安全性を確認
設備のかさ上げ想定浸水深と設備重量を確認
防水区画壁・床・配管貫通部の止水性能を確認
排水ポンプ電源、排水先、ポンプ能力を確認
逆流防止下水・排水管からの逆流リスクを確認
上階移設構造荷重、配線、保守動線、工事中の停電を確認

電気室や受変電設備は新築時に配置を検討する方が、設計上の自由度を確保しやすくなります。

既存ビルでも移設は可能ですが、電力会社との協議、構造補強、停電期間、配線変更などの制約が大きくなる場合があります。

4.BCP関連設備の費用を考える際のポイント

BCP関連工事は、設備容量や建物条件によって費用が大きく変動します。そのため、発電機や耐震補強などの費用を、設備容量や建物面積だけで一律に示すことは困難です。

費用に影響する主な条件
工事主な変動要因
非常用発電設備発電容量、燃料方式、設置階、排気、騒音、消防対応
太陽光発電設置容量、屋根形状、構造補強、防水、受変電設備
蓄電池容量、出力、設置場所、空調、消防、安全対策
耐震補強構造形式、補強箇所、テナント営業、内装復旧
浸水対策想定浸水深、開口部の数、止水範囲、既存設備の位置
通信冗長化回線引込ルート、通信室、予備配管、UPS容量

費用を検討する際は、次の費用を分けて確認します。

  • 設備本体費
  • 設置工事費
  • 構造補強費
  • 建築・内装復旧費
  • 電気・配管工事費
  • 設計・監理費
  • 行政申請・協議費
  • 停電・休業・仮移転に伴う費用
  • 保守・燃料・更新などの維持管理費

複数の設備案を同じ条件で比較し、初期費用だけでなく、維持管理費や更新周期も含めて判断することが重要です。

5.BCP対応の建設・改修で確認したい支援制度

補助金や税制措置は、年度ごとに制度内容、公募期間、対象設備、補助率が変更される可能性があります。また、申請前または交付決定前に発注・契約・着工すると、補助対象外になる制度もあります。計画初期に制度を確認し、設計・見積・申請・発注の順序を工程へ組み込む必要があります。

(1)中小企業防災・減災投資促進税制

中小企業防災・減災投資促進税制は、認定を受けた事業継続力強化計画などに記載された一定の防災・減災設備について、税制措置を利用できる制度です。

2026年7月時点では、対象期間内に計画認定を受け、認定後の所定期間内に対象設備を取得して事業に使用した場合、取得価額の16%の特別償却を受けられる制度として案内されています。

項目内容
主な対象者制度上の要件を満たす中小企業者等
必要な手続き事業継続力強化計画等の認定
税制措置対象設備の取得価額の16%の特別償却
対象設備認定計画に記載された一定の防災・減災設備
注意点設備の種類、取得価額、設置方法、取得時期などに要件がある

ビルオーナーが設備を所有してテナントへ貸し付ける場合などは、税制対象となるかを個別に確認する必要があります。

税制の適用判断については、税理士や所管の経済産業局などへの確認が必要です。

(2)事業継続力強化計画の認定制度

事業継続力強化計画は、中小企業者等が策定する防災・減災の事前対策計画を経済産業大臣が認定する制度です。中小企業庁は、認定を受けた事業者について、税制措置、金融支援、一部補助金での加点などの支援を受けられる場合があると案内しています。

活用項目内容
税制措置対象設備について特別償却を利用できる場合がある
金融支援政府系金融機関等の支援を利用できる場合がある
補助金一部公募で加点措置が設定される場合がある
対外的な活用認定ロゴ等を使用し、取組を示すことができる

すべてのビルオーナーや不動産賃貸事業者が対象になるとは限りません。事業者区分、資本金、従業員数、事業内容などから対象要件を確認する必要があります。

(3)耐震診断・耐震改修に関する補助制度

国や地方公共団体では、一定の建築物を対象として、耐震診断、補強設計、耐震改修などを支援する制度を設けている場合があります。

主な対象例には、次のような建築物があります。

  • 耐震診断が義務付けられている大規模建築物
  • 緊急輸送道路沿道の一定の建築物
  • 不特定多数が利用する一定規模以上の建築物
  • 自治体が独自に対象としている建築物

一般的な中小規模の賃貸オフィスビルが、必ず補助対象になるわけではありません。対象用途、延床面積、建築時期、接する道路、自治体制度などによって、補助の可否や補助上限が異なります。

(4)省エネ・ZEB関連補助事業

高効率空調、断熱改修、照明、BEMS、太陽光発電、蓄電池などについては、省エネ・ZEB関連の補助事業を利用できる場合があります。ただし、制度ごとに対象となる建築物の規模や要件が異なります。

2026年度のZEB実証事業では、ZEB化事業の主な対象規模は、新築が延べ面積10,000㎡以上、既存建築物が2,000㎡以上とされています。そのため、規模の小さい中小ビルは当該事業の対象外となる可能性があります。また、同事業のZEB化事業では、2026年度の補助率が新築は補助対象経費の3分の1以内、既存建築物の増築・改築・設備改修は2分の1以内とされています。既存テナント事業や未評価技術単独事業には別の要件が設定されています。

確認項目内容
対象規模延床面積等の要件を確認
建物用途事務所、ホテル、店舗などの区分を確認
ZEB水準ZEB、Nearly ZEB、ZEB Readyなどの要件を確認
対象経費設備費、工事費、設計費などの範囲を確認
着工時期交付決定前の発注・契約が可能か確認
運用報告完成後のエネルギー報告義務等を確認

2026年度ZEB実証事業では、交付決定前に発注等を完了した事業は補助対象にならないことが公募要領に明記されています。

中小規模のビルでは、ZEB実証事業以外の省エネ設備支援や自治体独自制度が利用できる場合もあるため、複数制度を比較します。

(5)太陽光発電・蓄電池に関する支援制度

太陽光発電や業務・産業用蓄電池については、国や自治体が補助事業を実施する場合があります。ただし、次の条件は年度や制度によって異なります。

  • 太陽光発電と蓄電池の同時導入が必要か
  • 自家所有、PPA、リースのどれが対象か
  • 停電時の自立運転が要件となるか
  • 補助対象となる設備容量
  • 補助単価や補助率
  • 蓄電池の性能・安全性要件
  • 既存設備の更新が対象になるか

制度名や前年の補助率だけで判断せず、申請年度の公募要領を確認する必要があります。

支援制度を利用する際の注意点

  • 採択や税制適用が保証されるものではない
  • 同一経費への国費補助の重複が認められない場合がある
  • 補助対象外となる設計費・工事費がある
  • 交付決定前の発注・契約・着工が制限される場合がある
  • 事業完了期限や支払期限が設定されている
  • 導入後に実績報告や運用データの提出が必要な場合がある
  • 一定期間、設備の売却や処分が制限される場合がある

耐震、省エネ、再生可能エネルギーなどの制度を比較し、対象工事と対象経費を分けて整理することが重要です。

6.BCP対応改修で想定される失敗例と対策

失敗例① 浸水リスクを確認せず、地下の電気設備を継続使用した

地下に受変電設備がある状態で浸水対策を行わないと、水害時に電力供給が停止し、建物全体の機能に影響する可能性があります。

対策
  • 想定浸水深を確認する
  • 上階移設や設備のかさ上げを比較する
  • 防水区画、止水板、防水扉を検討する
  • 配管・配線貫通部の止水を行う
  • 排水ポンプの電源喪失対策を確認する
失敗例② 非常用発電設備の設置条件を後から検討した

非常用発電機本体を設置できても、燃料タンク、排気、給気、騒音対策、配線スペースが確保できず、計画が難しくなる場合があります。

対策

新築・大規模改修の段階で、次の条件を整理します。

  • 発電機設置スペース
  • 構造荷重
  • 燃料タンク
  • 排気・給気ルート
  • 騒音・振動対策
  • 電力配線ルート
  • 浸水・火災対策
  • 点検・更新時の搬出入動線
失敗例③ 発電容量だけを決め、運用方法を決めなかった

非常用発電機があっても、対象負荷、運転時間、燃料補給、操作担当者が決まっていなければ、実際の災害時に十分活用できない可能性があります。

対策
  • 優先して給電する設備を一覧化する
  • 自動切替と手動切替の範囲を決める
  • 燃料補給先と契約条件を確認する
  • 定期的な負荷試験を実施する
  • 操作手順と担当者を決める
  • 停電を想定した訓練を行う
失敗例④ 補助金の申請前に発注・契約を行った

制度によっては、交付決定前に発注や契約を行うと補助対象外になります。

対策

計画初期に次の順序を整理します。

  1. 対象制度の確認
  2. 設備要件・申請要件の確認
  3. 設計・見積の取得
  4. 補助金申請
  5. 交付決定
  6. 発注・契約
  7. 着工
  8. 実績報告

実際の順序は制度ごとに異なるため、公募要領に従います。

失敗例⑤ テナントへの影響を十分に検討しなかった

耐震補強、電気設備更新、防水工事などでは、騒音、振動、停電、通行制限が発生する場合があります。

対策
  • 工区を分けて施工する
  • 休日・夜間工事を検討する
  • テナントの繁忙期を避ける
  • 仮設電源や仮設動線を確保する
  • 騒音・振動の発生時間を事前に通知する
  • 停電時間と復旧確認方法を整理する
  • 賃貸借契約上の工事条件を確認する

夜間工事には割増費用や近隣騒音の問題もあるため、必ずしも最適とは限りません。

7.CM方式を活用した中小ビルのBCP計画

中小ビルのBCPを考慮した建設・改修では、建築、構造、電気、機械、通信、防災、補助制度などを横断的に調整する必要があります。

CM方式では、発注者の立場から、必要性能、工事範囲、費用、工程、発注方法などを整理します。

BCP要件と設計条件を整理する

CMrは業務範囲に応じて、発注者やテナントが求める機能継続水準を整理し、設計者との情報共有を支援します。

これにより、非常電源の対象負荷が不足する、通信設備が非常電源につながっていないなどの設計上の不整合を低減します。

複数案の費用と効果を比較する

例えば、浸水対策では次のような複数案が考えられます。

  • 受変電設備を上階へ移設する
  • 既存位置で設備をかさ上げする
  • 電気室を防水区画化する
  • 建物出入口に止水板を設置する
  • 複数の対策を組み合わせる

初期費用だけでなく、工事中の停電、テナントへの影響、維持管理、将来更新を含めて比較します。

支援制度と設計・発注工程を調整する

利用可能性がある補助制度や税制措置を整理し、申請時期と設計・発注工程との整合を検討します。ただし、CMrが補助金の採択や税制適用を保証するものではありません。必要に応じて、税理士、行政書士、補助金申請の専門家、設備設計者などと連携します。

テナントへの影響を考慮した施工計画を検討する

稼働中のビルで改修を行う場合は、設計者・施工者と連携し、次の条件を整理します。

  • 工区分け
  • 夜間・休日工事
  • 停電・断水時間
  • 仮設電源
  • 仮設動線
  • 騒音・振動対策
  • テナントへの説明
  • 工程変更時の連絡方法
発注方式を比較する

BCP関連工事では、建築、耐震、電気、通信、太陽光、蓄電池など複数の工事が発生します。発注方式には、主に次の選択肢があります。

  • 総合建設会社等への一括発注
  • 工種別の分離発注
  • 設計施工一括発注
  • 段階的な改修発注

分離発注は工事費の内訳を把握しやすい一方で、工種間の調整や責任分界の管理が複雑になる可能性があります。一括発注と分離発注を比較し、発注者の管理体制、工期、工事範囲に合った方式を選びます。

8.発注者が計画前に確認すべきチェックリスト

確認項目確認内容
BCP目標継続する業務、設備、時間、復旧目標を設定
耐震性能建築確認時期、構造、耐震診断・補強履歴を確認
非構造部材天井、外壁、ガラス、設備機器等の安全性を確認
ハザード情報洪水、内水、高潮、津波、土砂災害等を確認
電気設備の位置想定浸水深より高い位置または浸水リスクの低い位置を検討
非常用発電設備対象負荷、容量、運転時間、燃料、排気を確認
太陽光・蓄電池自立運転、対象負荷、容量、構造荷重を確認
通信の冗長化通信事業者、回線方式、引込ルートを確認
UPS対象機器、必要なバックアップ時間を確認
給排水受水槽、給水ポンプ、トイレ、排水機能を確認
浸水対策止水板、防水扉、かさ上げ、防水区画等を比較
テナント要件入居テナントが求める機能継続水準を確認
工事中の影響停電、断水、騒音、振動、動線制限を確認
補助金・税制対象者、対象設備、申請期限、発注条件を確認
維持管理点検、試運転、燃料補給、訓練、更新計画を設定
総事業費設備費、工事費、設計費、休業影響、維持費を含めて比較

BCPは設備を導入するだけでなく、必要な機能と運用を設計する

中小ビルのBCPでは、非常用発電機、蓄電池、耐震補強などを個別に導入するだけでは不十分です。まず、災害時にどの機能を、どの程度、何時間継続するかを設定し、それに合わせて建築・設備計画を組み立てる必要があります。

重要なポイントは次のとおりです。

  • 「BCP対応ビル」に一律の法的設備基準があるわけではない
  • 建物ごとに重要業務、復旧目標、必要な機能を設定する
  • 旧耐震基準に該当する可能性がある建物は、耐震性能を確認する
  • 現行耐震基準への適合だけで、地震後の継続使用が保証されるわけではない
  • 非常電源の容量・運転時間は、対象負荷と復旧目標から設定する
  • 72時間は一般の中小ビルに一律適用される基準ではない
  • 浸水対策は「2階以上」ではなく、想定浸水深と建物条件から決める
  • 太陽光発電は、停電時の自立運転機能を確認する
  • 通信回線は事業者だけでなく、物理的な引込ルートも確認する
  • 補助金・税制は、発注・契約前に申請条件を確認する
  • 同一経費について複数の国費補助を併用できない場合がある
  • 設備導入後も、点検・訓練・燃料補給・計画更新を継続する

BCPを考慮した中小ビルの建設・改修については、お気軽にお問い合わせください。

建物の現状確認、BCP要件の整理、耐震・電気・通信・浸水対策の比較、概算事業費の検討、設計・工事段階のマネジメントまで、発注者の立場でサポートいたします。

本記事は、2026年7月時点の公表情報を基にした一般的な解説です。実際に必要となる耐震性能、設備容量、運転時間、法定設備、補助制度、税制措置などは、建物の用途、規模、構造、所在地、テナントの業務内容、申請時期によって異なります。

補助金や税制措置は、年度途中でも公募状況や要件が変更される場合があります。具体的な計画については、建築士、構造設計者、設備設計者、税理士、所管行政庁、補助事業の執行団体などへ個別にご確認ください。

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