医療モールでの消防法対応と共用部設計の注意点

開業後に「是正命令」を受けないために知っておくべき設計ポイント
医療モールでは、複数の診療所や調剤薬局が同一建物・フロアに入居するケースが多く見られます。
その際、消防法に基づく安全対策と共用部(廊下・トイレ・待合スペースなど)の適正設計は、
建築計画段階から慎重に対応しなければならない重要な要素です。
本記事では、建築CM会社の視点から「医療モールにおける消防対応と共用部設計の注意点」について、実務的に解説します。
なぜ「医療施設」は消防法上の重点対象になるのか?
診療所・クリニックは建築基準法上では「特殊建築物」に該当し、
消防法においても避難困難者(患者)の存在を前提とした対策が求められます。
特に医療モールでは…
多数の人が出入りし、火災時の避難に時間を要する
医療用電気機器や酸素ボンベなど、火災リスクの高い設備を設置
事務所や物販店舗とは異なる防火区画・避難動線の設計基準
…など、高度な消防対応が必要とされます。
医療モールにおける消防法対応の主な項目
以下は、医療モール設計時に考慮すべき主な消防対応項目です。
項目 | 内容 |
---|---|
自動火災報知設備 | 面積や用途に応じて義務化。複数テナントでも共用可だが、範囲区分に注意。 |
誘導灯・非常口表示 | 明確な避難経路を表示し、視認性の高い場所に設置。モール全体で統一性を持たせる。 |
防火区画 | テナントごとに区画を分離。間仕切り壁・天井裏の貫通部分には防火処理必須。 |
スプリンクラー設備 | 延べ面積や階数に応じて義務となる。後付けが困難なため設計初期で判断を。 |
消防機関との事前協議 | 消防計画の承認・避難訓練の提出が必要。開業前の事前確認が推奨される。 |
共用部設計の注意点:火災時に“危険区域”になりやすい?
共用廊下・トイレ・待合スペースは、設計次第では火災時のリスクエリアになる場合もあります。
以下の点に注意が必要です:
各診療科の専有部と共用部を防火区画で分離しているか?
廊下やエントランスに可燃物(雑誌ラック・木製什器等)が置かれていないか?
**ストレッチャー・車椅子の通行に支障ない有効幅(1.2m以上)**が確保されているか?
また、共用トイレや待合室を各診療科で共有する場合は、消防避難計画・動線設計に一貫性が必要です。
(例:ある診療所から別の診療所を通らなければ共用トイレに行けない等はNG)
よくあるトラブル事例
ケース | 問題内容 |
---|---|
廊下の天井裏が複数テナントでつながっていた | 防火区画の不備により是正命令。開業延期に。 |
誘導灯の設置が曖昧 | 夜間照明不足と判断され、消防検査NG。 |
消火器の配置がテナント任せ | モール全体で計画されておらず、消防署から指導。 |
医療モールの消防対応は“共用部設計”から始まっている
医療モールの消防計画は、「テナント単体」ではなくモール全体で一貫性ある設計が求められます。
特に共用廊下・待合・トイレなどは防火設計と動線設計の交点にあるため、十分な検討が必要です。
診療科ごとに異なる運用を予定している場合でも、CM会社が間に立つことで、全体最適の安全設計を実現することが可能です。