医院・クリニック・診療所の違いを徹底解説|開業前に知るべき法律・建築上の注意点
「開業するなら名前はどうする?」
医院、クリニック、診療所——この呼び方の違いに戸惑う医師は少なくありません。患者への印象だけでなく、行政手続きや建築計画にも関わるため、軽視できないテーマです。
近年では、都市部でのクリニックモールや医療ビルの普及、高齢化に伴う地域密着型診療所の需要増加など、医療施設の在り方自体が変化しています。だからこそ、呼称の理解と法的扱いを正しく整理しておくことが、スムーズな開業の第一歩となります。
本記事では、医院・クリニック・診療所の違いを基礎から解説し、さらに建築計画や法規制の観点から注意点をまとめます。
1|法律上はすべて「診療所」
まず押さえておきたいのは、「医院」「クリニック」「診療所」に法律上の区別はないという点です。
✅ 医療法における診療所の定義
病床数が0~19床以下の医療施設
医師または歯科医師が開設
つまり、名称は「自由に」選べますが、法的にはすべて**「診療所」**として扱われます。
このため、行政手続きや建築確認申請では「診療所」という表記が使われるのが一般的です。
2|呼称の違いと実務上の傾向
| 呼称 | 実務上の傾向 | よく見られる診療科 | 患者イメージ |
|---|---|---|---|
| 医院 | 昔ながらの呼び方。地域密着型、小規模 | 内科、小児科、外科など | 「町のお医者さん」的な親しみやすさ |
| クリニック | 都市型・洗練された印象。若い医師に人気 | 美容皮膚科、心療内科、整形外科など | 清潔感・専門性を感じやすい |
| 診療所 | 行政手続き上の正式名称 | 全般 | 中立的で事務的な印象 |
👉 名称選びはブランディングの一環です。
都市部の若年層をターゲットにするなら「クリニック」、地域の高齢者層に訴求するなら「医院」といった使い分けが有効です。
3|建築基準法上の扱い(無床・有床で大きな差)
呼称に関わらず、建物用途はすべて「診療所」に区分されます。
ただし、無床診療所と有床診療所では建築要件が大きく異なるため注意が必要です。
✅ 無床診療所(病床なし)
用途:事務所用途+診療所用途で対応可能
避難経路・防火区画の要件は比較的軽い
テナントビルの一角でも開設しやすい
✅ 有床診療所(病床あり:19床以下)
特殊建築物として扱われる
スプリンクラー・非常用照明・非常口など消防設備が必須
バリアフリー設計(スロープ、車椅子対応トイレ)が義務化
設備投資額は無床の約1.5〜2倍に膨らむことも
👉 例:同じ延床300㎡の建物でも、無床診療所は坪単価90〜110万円程度で収まるのに対し、有床診療所は120〜150万円に上がるケースが多いです。
4|設計・開業時の注意点(チェックリスト)
開業を進めるにあたり、以下の項目を早い段階で整理しておくと失敗を防げます。
✅ 開業前チェックリスト
名称はターゲット層に合っているか(医院 or クリニック)
病床の有無を決定し、建築用途を確定しているか
レントゲン・CT・MRIなど機器の床荷重・電気容量を設計に反映しているか
遮音・遮蔽設計を考慮しているか(隣接科目とのトラブル防止)
消防署・保健所との事前協議を実施しているか
テナントビルで開業する場合、用途変更の必要有無を確認したか
このチェックリストを押さえておくと、後戻りのコストやスケジュール遅延を防ぐことができます。
5|名称選びがブランディングに与える影響
医療施設の名称は、患者にとって「第一印象」になります。
「◯◯クリニック」=清潔・専門性・都市型
「◯◯医院」=親しみ・信頼感・地域密着
「◯◯診療所」=公的・行政的な印象
実際、都市部の美容皮膚科やメンタルクリニックでは「クリニック」の表記が圧倒的に多く、一方で地方の内科や小児科では「医院」という名称が根強く残っています。
👉 成功例
・若手医師が「◯◯クリニック」として開業 → 若年層患者の来院が増加
👉 失敗例
・都市部で「医院」を名乗ったが、ターゲット層のイメージに合わず認知に苦戦
つまり、名称は単なる呼び名ではなく、立地とターゲット患者層に合わせた戦略的な選択が必要なのです。
名前よりも大切なのは「法対応」と「設計」
「医院」「クリニック」「診療所」——呼称は自由に選べますが、法律上はすべて診療所です。
そのため、重要なのは名称そのものよりも、
有床か無床かの判断
建築基準法・消防法への適合
機器や設備を見据えた設計計画
行政手続きの整合性
を早期に押さえることです。
開業をスムーズに進めるためには、名称=ブランディング、法対応=計画の土台と切り分けて考えることが成功のポイントとなります。


