商業施設のテナント工事とビル本体工事をどう調整するか?

スムーズな竣工・開業のための実務的なポイント

大型の商業施設や複合ビルを計画する際、建物本体の工事(躯体・共用部・外構など)と、テナントの内装工事(いわゆる内装フィットアウト)の調整と連携が極めて重要です。

ビル本体が完成していても、テナント工事が遅れて開業できない。
逆に、テナントの工事が始められずに出店がキャンセルになる――。
こうした事態を避けるためには、計画初期からの情報整理とスケジュール調整が不可欠です。

本記事では、建築主や不動産オーナーが押さえるべき実務上の重要ポイントを、わかりやすくご紹介します。

テナント工事とは?本体工事との違い

工事区分主な内容実施主体
本体工事(スケルトン工事)躯体・屋根・外壁・共用部・設備インフラ施主(デベロッパー)
テナント工事(内装工事)床・壁・什器・看板・厨房などテナント事業者

テナント区画はスケルトン状態(仕上げなし)で引き渡すのが一般的で、その後、テナントが指定業者により内装工事を実施します。

しかし、工事の境界や責任範囲が曖昧だと、配管の位置が合わない、電気容量が足りないなどのトラブルが発生しやすくなります。

テナントとの情報共有が遅れるとどうなる?

  1. 設備容量不足(空調・電源・排気容量など)
    → 追加設備工事が発生し、コストと工期が増大。

  2. 開口位置や間仕切りの不一致
    → 躯体への再工事、構造への影響リスク。

  3. 法令・消防法への適合漏れ
    → 消防検査の遅れ、開業許可の取得が困難に。

  4. 音・臭気などのテナント間クレーム
    → 遮音構造やダクト計画に関する再設計。

これらの問題は、本体設計段階でテナント側の業態・設備要件を把握していないことが主な原因です。

スケジュール調整の基本|「内装着手可能日」を意識する

テナント工事の着手は、「ビル側からの区画引渡し完了」が前提となります。

  • 躯体工事完了

  • 防火区画・界壁の設置完了

  • 各種設備の系統引き込み完了

  • 共用動線の確保(搬入経路の確保)

これらが整っていないと、テナント工事が始められません。
したがって、本体工事スケジュールとテナント工事スケジュールを段階的に連携させることが不可欠です。

設備の「先行準備」と「仕様統一」がポイント

商業施設では各テナントが独自に空調・給排水・防災設備を計画するケースが多いため、以下の点を早期に整理することが求められます。

■ 給排水・ダクト経路の干渉調整

→ 躯体に穴あけが必要な場合は、構造確認と施工調整が必要。

■ 電気容量の割当と系統確認

→ ビル全体の契約容量に対して、テナント需要が超過していないかチェック。

■ ガスや厨房ダクトのルート確保

→ 飲食店舗が入居する場合、他のフロアと干渉しないルート設計が重要。

これらを設計初期の段階でガイドラインとして定めておくことが、後工程の混乱を防ぎます。

よくあるトラブルとその回避方法

トラブル回避策
テナント工事が本体工事に先行して進んでしまう引渡し区画に「工事着手可能通知」を発行
共用部とのデザイン不整合統一仕様ガイドライン(サイン、色調、素材)を事前配布
テナントが勝手に構造変更管理者による設計審査制度の導入
消防検査で不適合判定テナント用設備設計時に本体消防設備と連携設計を義務化

スムーズな開業の鍵は「事前調整」と「仕様の統一」

商業施設の成功は、建物本体が完成するだけでは成り立ちません。
テナントが計画通りに内装工事を進め、予定日に無事に開業できるかどうかが、施設の収益性・ブランド価値を左右します。

そのためには、以下のようなポイントが重要です。

  • 設計初期段階からのテナント要件の収集

  • 設備系統の共有と事前調整

  • テナント向け内装工事ガイドラインの整備

  • スケジュールと区画引渡しタイミングの明確化

これらを的確に行うことで、テナントの満足度と、施設全体の運営効率が高まります。

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