空きオフィスをホテルに転用した事例|設計と法規制の対応とは?
コンバージョンによる都市資産の再活用の可能性
人口減少やテレワークの普及により、都市部でも空きオフィスの活用課題が顕在化しています。
その中で注目されているのが、**オフィスビルをホテルへと用途変更(コンバージョン)**する取り組みです。
一見すると「内装を変えるだけで簡単」と思われがちなホテル転用ですが、設計面・法規面での調整が非常に重要となります。
本記事では、実際の事例をもとに、ホテル転用における設計・法規制の対応ポイントを解説します。
設計上の主な調整ポイント
① 客室レイアウトと設備動線の再設計
既存オフィスビルでは、水回りの集約や縦配管の位置が限定的であり、
ホテル用途への転用においては以下の点を重点的に調整しました:
客室ごとに必要なトイレ・シャワーユニットの設置
給排水配管の集中ルートと床上配管処理
廊下・避難経路の確保とバリアフリー化
エレベーター台数の確認(搬送能力)
ポイント:客室レイアウトは既存構造の制約を前提に、効率よく設計する必要があります。
② 耐震性能の確認と補強
昭和・平成初期に建てられたビルの場合、ホテル転用に際して耐震診断と補強設計が求められるケースが多くあります。
既存図面がない場合は、スケルトン調査を実施
必要に応じて鉄骨ブレースや耐震壁を追加
補強費用と減税制度(耐震改修促進法)の活用も検討
③ 防火区画と避難動線の見直し
ホテル用途では、宿泊者が「不特定多数」であり、滞在時間も長いため、オフィス用途よりも厳しい防火基準が適用されます。
各客室の界壁(遮音・防火)の仕様確認
避難階段・避難バルコニーの設置・改修
自動火災報知設備、非常放送設備の増設
スプリンクラーの設置基準の確認(用途・延床により異なる)
■ 旅館業法の許可申請
管轄保健所への営業許可申請(簡易宿所 or ホテル営業)
客室面積・換気・採光・衛生設備の基準を満たす必要あり
管理人常駐 or 遠隔管理の対応体制も審査対象
■ 消防法対応
消防設備の新設・増設(スプリンクラー、誘導灯など)
消防署による設計協議と竣工検査
事業化判断におけるポイント
ホテル転用プロジェクトでは、以下のような「可否判断のフレームワーク」を使うと効果的です:
| 観点 | チェック項目 |
|---|---|
| 法的条件 | 用途地域、容積率、接道、法規制クリアの可能性 |
| 構造条件 | 耐震性能、天井高、設備容量、共用部の改修余地 |
| 市場条件 | 周辺宿泊需要、競合ホテル、価格帯との整合性 |
| 収支条件 | 改修費用+運営費 vs 収益見込(IRR/回収年数) |
空きビル再活用の選択肢としてのホテル転用
ホテルへの転用は、「老朽化したオフィスビル」や「テナントが集まりづらい立地」で特に有効な再活用方法です。
ただし、設計・法規・許可・収支など複合的な検討要素が多く、初期の判断ミスが後の工期・コストに大きく影響します。
本記事で紹介したポイントを踏まえ、早期段階での現地調査と法的確認を徹底し、
「使えないビル」から「収益を生むホテル」への転換を現実のものとしましょう。


