資産としての自社ビル|売却・賃貸まで見据えた設計戦略とは
「オフィスは使うもの」から「資産として残すもの」へ。
近年、中小企業を中心に「賃貸ではなく、自社ビルを所有したい」と考える企業が増えています。背景には、
家賃コストの削減
企業の信頼性向上
資産としての保有メリット
相続や事業承継対策
といった目的があります。
しかし、自社ビルを「自社だけで使うこと」を前提に設計してしまうと、将来的に売却しづらい・賃貸需要が低いといった問題に直面するリスクがあります。
本記事では、資産価値を維持・向上できる自社ビルの設計戦略について、売却・賃貸への展開を視野に入れながら解説します。
資産価値の高い自社ビルに求められる3つの条件
資産として評価されるビルには、共通した特徴があります。
1. テナントに貸しやすい仕様
フロア分割が可能
共用部(トイレ・給湯室など)が整備されている
空調・電気設備がゾーニングされている
これらが整っていれば、将来的なテナント誘致が容易になります。
2. 汎用性のある設計
特定の業種に偏らない設計は、幅広い利用者に対応可能。
業種を選ばない平面計画や天井高の確保は、長期的に賃貸価値を高める要素です。
3. 管理コストを抑えられる仕様
修繕しやすい外装材
長寿命の設備機器
将来的なリニューアルがしやすい構造
管理費が抑えられる建物は、オーナーだけでなく買い手やテナントにとっても魅力的です。
賃貸展開を見据えた設計のポイント
① 各階を分割できる区画設計
ワンフロアを複数テナントに対応可能なプラン
共用トイレや給湯スペースを設置
区画ごとの個別空調を確保
② 共用部・導線の独立性
EVホール・階段を複数区画に対応可能に
セキュリティ制御しやすい配置
③ 天井高と床荷重の確保
天井高 2.6m以上、床荷重300kg/㎡以上を目安
幅広い業種が利用できる汎用性を確保
④ フレキシブルな設備計画
OAフロアや二重天井を採用し、レイアウト変更に対応
個別空調システムでテナント満足度を向上
売却を視野に入れた立地・用途・登記の工夫
● 立地選定
駅徒歩圏内や幹線道路沿いは資産価値が高く、テナント需要も安定。
近隣の再開発や都市計画の動向を確認すれば、将来の地価上昇も期待できます。
● 用途地域
「商業地域」「準工業地域」「近隣商業地域」など、転用の幅が広い地域が有利。
将来的な売却や用途変更も視野に入れて選定しましょう。
● 区分登記と管理体制
区分登記に対応した設計にしておくと、フロアごとの売却や相続が容易になります。
また、管理規約や保守計画を整備しておけば、買い手にとって安心材料となります。
出口戦略と税務面の考慮
自社ビルは建設して終わりではなく、出口戦略を考えることが資産価値の最大化につながります。
| 出口戦略 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|
| 一部賃貸 | 安定収入を得られる | 空室リスク・テナント対応が必要 |
| 一棟売却 | 資金調達が可能 | 市況に左右されやすい |
| 区分売却 | フロア単位での分散売却が可能 | 区分登記や管理組合の整備が必須 |
| 相続対策 | 評価額を抑えやすい | 路線価や収益還元法の理解が必要 |
さらに、建設費の減価償却や固定資産税の節税対策も、税理士や不動産専門家と連携して進めることでキャッシュフローを最適化できます。
“使うオフィス”から“残せるビル”へ
自社ビルは単なる業務空間ではなく、企業の資産として長期的に価値を持つ建物です。
設計段階から「貸せる・売れる・残せる」ことを前提に計画することで、将来的な選択肢が広がり、リスクを最小化できます。
建設後に「もっとこうしておけばよかった」と後悔しないためにも、出口戦略を見据えた設計戦略を早期から検討することが重要です。


