なぜ建設費は発注後に増えるのか?|間違った試算の共通点
その「概算」が事業リスクを生む理由とは
オフィスビル、商業施設、ホテル、医療施設などの建設を検討する際、多くの発注者が最初に知りたいのは「いくらかかるのか」という点です。そこで行われるのが建設費の概算試算です。しかし、初期段階の試算方法を誤ると、その後の事業計画全体に大きな歪みが生じることがあります。
実務上、発注前の建設費試算には“やってはいけない考え方”がいくつか存在します。本記事では、実際に計画が修正や見直しに至る原因となりやすい試算上の誤りを整理します。
1. 「坪単価×延床面積」で完結させてしまう
最も多い誤りが、インターネットや他案件の情報から拾った坪単価に延床面積を掛けるだけで事業費を算出してしまうことです。
坪単価はあくまで一定条件下の参考レンジに過ぎません。構造形式(S造・RC造・SRC造)、階数、用途構成、設備水準、立地条件、工期条件によって大きく変動します。同じ延床面積であっても、用途が異なれば設備比率が変わり、総工費も大きく異なります。
「単価で判断する」こと自体が問題ではなく、単価の前提条件を整理しないまま固定値として扱うことがリスクとなります。
2. テナント未定のまま標準仕様で固定する
商業施設やオフィスビルでは、テナント構成によって必要な設備容量や床荷重が変わります。飲食テナントの割合が増えれば給排水・排気設備が強化され、医療系が入れば電気容量や特殊設備対応が必要になります。
それにもかかわらず、初期段階で「標準仕様」として固定した試算を行うと、テナント決定後に大幅な増額が発生する可能性があります。発注前の試算では、複数の用途シナリオを想定し、レンジで整理することが重要です。
3. 本体工事費だけで判断する
建設費試算では、本体工事費のみを見て判断してしまうケースがあります。しかし実際には、
・設計監理費
・確認申請・各種許認可費用
・地盤改良費
・解体費
・外構工事費
・仮設費
・登記・税務関連費用
などが発生します。これらを含めた総事業費で見なければ、収支計画は成立しません。特に既存建物の建替えや用途変更を伴う場合、解体費や補強費が想定外に増えることがあります。
4. 工期リスクを考慮しない
建設費は工期と密接に関係します。資材価格の変動、労務単価の上昇、行政協議の長期化などにより、当初想定よりコストが上昇する可能性があります。
発注前の試算では、「現在の価格水準でそのまま進む」という前提を置かず、一定の変動リスクを織り込む必要があります。
5. ライフサイクルコストを無視する
初期建設費のみを抑えることを優先し、設備性能や断熱性能を過度に下げると、運営開始後の維持管理費や修繕費が増加します。特にホテルや医療施設では、光熱費や更新費用が長期的な収支に大きく影響します。
発注前の段階で、建設費と運営費を分断して考えることは適切ではありません。
6. 「予算ありき」で数字を合わせる
あらかじめ設定した予算に合わせて建設費を逆算し、仕様を曖昧なまま調整してしまうケースも見られます。この場合、後工程で仕様確定時に差額が顕在化し、計画見直しや規模縮小につながります。
試算は「希望額に合わせる作業」ではなく、「現実的な条件を整理する作業」であるべきです。
発注前の試算は“幅”で整理する
発注前にやってはいけない建設費試算の共通点は、「単一の数字に固定すること」です。
実務上の適切な整理方法は、
・用途ごとの条件を明確にする
・複数シナリオでレンジを設定する
・本体工事費以外を含めた総事業費で整理する
・一定の価格変動リスクを織り込む
というアプローチです。
建設費試算は、精度よりも前提整理が重要です。初期段階での整理の質が、その後の設計・入札・契約までの流れを左右します。発注前こそ、数字の作り方を誤らないことが、事業成功の第一歩となります。


