ビジネスホテル建設における「規模」の考え方 ― 客室数・延床面積をどう整理すべきか ―

ビジネスホテルの建設を検討する際、発注者から最も多く聞かれる質問のひとつが「この規模で本当に適正なのか」という点です。

インターネット上では、「ビジネスホテルは◯◯室が一般的」「延床面積は◯◯㎡が相場」といった表現が多く見られますが、実務の視点で見ると、こうした数値を前提条件を確認せずに鵜呑みにすることは非常に危険です。

なぜなら、ビジネスホテルには業界としての明確な統一定義や公的な規模基準が存在せず、規模は立地・法規・事業条件によって大きく変動するからです。本記事では、建設マネジメントの実務視点から、ビジネスホテル建設における「規模」の捉え方を整理します。

ビジネスホテルに「標準規模」は存在しない

まず前提として理解しておくべきなのは、「ビジネスホテル=この規模」という絶対的な基準は存在しないという点です。

国の統計や建築基準法上でも、ビジネスホテルという用途に対して客室数や延床面積を規定する明確な数値基準は設けられていません。そのため実務では、「どのような条件のもとで計画された事例か」を確認しながら、参考値として規模感を整理していくことになります。

客室数の考え方|なぜ幅が出るのか

当社がこれまでに関与してきた案件や、一般的に見られる事例を踏まえると、地方都市や準都市部における単体型ビジネスホテルでは、

  • 客室数:おおむね50~150室程度

で計画されるケースが見られます。

ただし、この数値は

  • 再開発案件ではない

  • 商業施設やオフィスとの大規模複合用途ではない

  • フルサービス型ホテルではない

といった条件を前提とした場合の目安です。

都市中心部や主要駅前、あるいはチェーン展開を前提としたホテルでは、これを超える客室数が計画されるケースも珍しくありません。重要なのは、客室数は土地条件と事業計画の「結果」であって、出発点ではないという点です。

延床面積は「客室数」だけでは決まらない

延床面積についても、単純に「◯室 × ◯㎡」で算出できるものではありません。

実際の建築計画では、

  • ロビー・フロント

  • EV・階段

  • PS・EPS

  • 機械室・電気室

  • 共用トイレ

  • 管理・バックヤード

といった非収益部分が必ず発生します。

前述の50~150室規模を前提とした場合、これらを含めた延床面積として、

  • おおむね2,000~6,000㎡前後

となる事例が見られます。ただしこの数値も、構造形式(RC造・S造等)や設備仕様、階高設定によって大きく変動するため、あくまで「規模感を掴むための参考値」として扱う必要があります。

「1室あたり面積」の誤解に注意

ビジネスホテル計画で特に誤解されやすいのが、「1室あたり◯◯㎡」という表現です。

実務上よく見られる1室あたり約25~35㎡程度という数値は、

  • 客室の専有面積ではなく

  • 共用部や設備スペースを含めた延床面積換算値

を指すケースが一般的です。

客室そのものの専有面積は、これよりも小さく設定されるのが通常であり、この区別をせずに数値だけを使うと、事業計画やコスト検討にズレが生じます。

規模拡大がそのまま事業性向上につながらない理由

容積率に余裕があるからといって、客室数や延床面積を最大化すればよい、というわけではありません。

規模を拡大すれば、

  • 建設費の増加

  • EV・設備容量の増設

  • 防火・避難規定の強化

といった要素が連動して発生します。

その結果、賃料(宿泊単価)に転嫁できないコスト増が生じ、事業性が悪化するケースも少なくありません。実務では、「建てられる最大規模」と「事業として成立する規模」は必ずしも一致しないことが多いのが現実です。

CM視点で見る「適正規模」の決め方

建設マネジメントの立場から重要なのは、先に規模を決めるのではなく、

  • 立地条件

  • 法規制

  • 想定運営モデル

  • 投資回収計画

を整理したうえで、結果として適正な客室数・延床面積を導くことです。数値だけを先行させた計画は、後工程での設計変更やコスト膨張につながりやすく、発注者にとって大きなリスクとなります。

規模は「判断材料」であって「正解」ではない

ビジネスホテルの建設規模には、万人に当てはまる正解は存在しません。重要なのは、数値の裏にある前提条件を理解し、自らの計画に当てはめて検証することです。

客室数や延床面積は、計画を縛る数字ではなく、事業性を見極めるための判断材料として冷静に扱う必要があります。

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