ホテル開業に必要な資金はいくら?費用内訳・調達方法・失敗しない資金計画まで徹底解説
1|ホテル開業資金の全体像(まず“いくら”かかる?)
開業資金は建築・内装だけではなく、家具什器(FF&E)・IT設備(OS&E)・設計監理・各種申請費・広告採用費・プレオープン費・運転資金まで含めた総額で見るのが鉄則。規模・立地・グレードで変動するが、目安は下記。
ビジネスホテル(80〜120室):総投資 15〜35億円
アッパーミドル(120〜200室):30〜60億円
リゾート/フルサービス:60億円〜
※土地取得費は別計上が一般的。既存建物を取得してリノベの場合は、建築費が下がる一方で解体・耐震・インフラ増強で上振れすることがある。
2|費用内訳の標準配分(新築・新規開業のケース)
プロジェクト初期のラフ見積りは、延床面積×坪単価で本体工事を掴み、残りを%配分で置くと抜け漏れが減る。
建物本体工事:45〜60%(構造・階数・仕様で変動)
内装・共用部仕上げ:8〜15%
設備(空調・給排水・電気・防災):10〜15%
FF&E/OS&E:6〜10%(客室1室あたり100〜200万円目安)
設計監理・申請・測量等:4〜8%
外構・サイン・ランドスケープ:2〜4%
開業準備・採用教育・販促:1〜3%
保険・金利・手数料(建設中利息含む):1〜3%
運転資金(稼働立上げ6〜12か月分):3〜6%
予備費(コンティンジェンシー):3〜7%(設計確度に応じて)
クイック試算(100室・延床5,000㎡・都市型ミドル)
本体・設備・内装合計:25〜30億円
FF&E/OS&E:1.5〜2.0億円
設計監理等:1.5〜2.0億円
開業準備・広告採用:0.3〜0.6億円
運転資金:0.8〜1.5億円
予備費:1.0〜1.5億円
→ 総額:30〜38億円(土地費別)
3|“見落としがちな”コスト項目チェック
長尺の電力受変電・ガス容量増強:後出しで数千万円増に。
防火・避難・騒音規制の追加対応:用途変更や階構成変更で発生。
厨房・ランドリーの熱源選定ミス:ランニング増大の典型。
IT/キーシステムの後工事:初期に仕様確定しないと二重工事化。
FF&E予備品・交換サイクル:開業後の**FF&Eリザーブ=売上の3〜5%**を前提化。
4|資金調達の方法(組み合わせが基本)
金融機関融資(プロジェクト/不動産担保)
期間:15〜25年目安、**自己資本比率20〜30%**を求められることが多い。
指標:DSCR(元利返済前CF/年間返済額)≥1.2〜1.3 を狙う。
政府系金融(日本政策金融公庫など)
新規開業・地域観光振興枠を活用。長期・据置が取りやすい枠を検討。
補助金・助成金
観光庁系(高付加価値化・バリアフリー・多言語・DX)
省エネ・ZEB補助(断熱・高効率空調・BEMS・再エネ)
耐震・防災改修支援(リノベ時)
※公募時期が短いので設計段階で対象工事を織り込む。
エクイティ(自己資金・共同出資・ファンド)
運営会社・不動産ファンドとSPC組成でレバレッジ最適化。
セール&リースバック/オペレーター型
竣工時に売却→賃借で資金回収、運営に集中するスキーム。
5|収支・返済を“数字で”固める:3つのコア指標
ブレークイーブン稼働率(BEP Occ)
= 固定費 ÷(平均客室単価(ADR)−変動費/室)÷総室数
→ 「最低どれだけ埋めれば赤字にならないか」を可視化。DSCR(債務返済余裕倍率)
= 年間営業CF(NOI−CAPEX一部)÷年間元利返済
→ 1.2〜1.3以上を目標に設定。投下資本回収(回収年数・IRR)
→ 投資回収年数10〜15年帯、IRRはリスク・立地でハードル設定。
6|失敗しない資金計画:時間軸と“余白”のつくり方
① 資金カーブ(Sカーブ)を作る
月次の資金需要曲線(設計→基礎→躯体→内装→試運転)を作成。月次資金繰り表と連動し、融資実行・自己資金拠出のタイミングを一致させる。
② 予備費(コンティンジェンシー)
基本設計段階:7%前後
実施設計・GMP契約後:3〜5%
設計確度に応じてスライド。為替・鋼材・機器の価格変動も考慮。
③ 長納期(ロングリード)品の前倒し
空調機・EV・キーカード・厨房機器は発注前倒しで工期遅延と高騰回避。
④ 運転資金は“厚め”に
開業直後は稼働立上げ期。6〜12か月分の固定費+在庫費を別勘定で確保。
⑤ 建設と運営の“境界コスト”を握る
Wi-Fi、PMS、入退室、監視カメラなどITの責任分界点を契約前に確定。二重工事・抜け漏れを防ぐ。
7|新築/リノベでの要点比較
新築:初期投資は大きいが、最新法規・ZEB適合・平面計画の自由度で長期の運営効率が高い。
リノベ:工期短縮・初期投資抑制が可能。ただし既存インフラ・耐震・音環境・設備容量で想定外コストが出やすい。事前の劣化診断・配管探査が生命線。
8|チェックリスト(保存版)
ADR・Occ・RevPARの前提値は保守的か
BEP稼働率・DSCRを毎月モニタリングできる設計か
補助金の公募時期・要件を設計仕様に反映済みか
FF&Eリザーブ(3〜5%)をPLに計上しているか
IT/セキュリティ/キャッシュレスの後工事が出ない仕様か
予備費の水準と価格変動リスク(為替・資材)を反映したか
開業後12か月分の運転資金を確保しているか
ホテル開業資金は数十億円規模。成功の分岐点は、
費用内訳を網羅し、
複線的な資金調達でリスクを分散、
BEP/DSCRを基軸に“資金カーブ”と“予備費”を設計すること。
この3点を徹底すれば、コスト高の環境下でも資金ショートを避け、計画的に黒字化へ持ち込める。開業準備の初期段階から、数字とスケジュールを「一本の線」でつなぐことが勝ち筋だ。


