ワンフロア vs 分割フロア|オフィス設計で企業が選ぶべき最適なプランとは?
オフィスビルを建設する際、設計の早い段階で判断しなければならない重要な選択のひとつが「ワンフロア設計にするか、フロアを分割するか」です。
この判断は単なるレイアウトの好みではありません。建設費・有効貸床率・テナント誘致のしやすさ・空室リスク・将来の改修コストに直接影響します。「完成してから変更が難しい」設計上の判断だからこそ、建設計画の初期段階で正しく理解しておくことが重要です。
本記事では、オフィスビルの建設を検討している発注者向けに、ワンフロア設計と分割フロア設計の違い・建設費への影響・収益性の比較・どちらを選ぶべきかの判断基準まで、建設マネジメント(CM)の視点から解説します。
1. ワンフロアと分割フロアの定義
まず「ワンフロア」と「分割フロア」を建設設計の視点で整理します。
| 項目 | ワンフロア設計 | 分割フロア設計 |
|---|---|---|
| 定義 | 1フロアを1テナントが使用できる設計 | 1フロアを複数テナントに分割できる設計 |
| 間仕切り壁 | 少ない(大空間) | 多い(各テナント区画を壁で区切る) |
| 共用廊下 | 不要または最小限 | 各テナントへのアクセス用に必要 |
| トイレ・給排水 | フロアに1か所 | 各区画または共用の複数か所に分散 |
| 空調設備 | 1フロア一括制御 | 各テナント区画で個別制御が必要 |
| 電力・通信 | フロア一括引き込み | 各テナント区画に個別引き込みが必要 |
2. 建設費への影響|分割フロアは1割〜2割コストが上がる
分割フロア設計では、各テナント区画に独立した設備が必要になるため、ワンフロア設計と比べて建設費が10〜20%程度高くなる傾向があります。
建設費に差が出る主な設備項目
| 設備項目 | ワンフロア | 分割フロア | コスト差 |
|---|---|---|---|
| 間仕切り壁・建具 | 少ない | 多い(各区画の仕切り) | +3〜5% |
| 空調設備 | 一括制御で済む | 各テナント個別制御が必要 | +3〜7% |
| 電気・分電盤 | フロア一括 | 各テナント個別計量が必要 | +2〜4% |
| 給排水・トイレ | 1か所で済む | 各区画またはフロア複数か所に必要 | +2〜5% |
| 共用廊下・エントランス | 不要または最小 | 各テナントへのアクセス動線が必要 | +2〜4% |
具体的なコスト比較例(延床300坪・S造・5階建ての場合)
| 設計方式 | 建物本体工事費の目安 | 差額 |
|---|---|---|
| ワンフロア設計(1フロア1テナント前提) | 約3億円 | 基準 |
| 分割フロア設計(1フロア2〜3テナント前提) | 約3.3億〜3.6億円 | +3,000万〜6,000万円 |
3. 収益性の比較|どちらが事業として有利か
ワンフロア設計の収益特性
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 想定テナント | 一定規模の企業(50名〜200名規模) |
| 賃料単価 | やや低め(1テナントに大面積を一括提供) |
| 契約期間 | 長期(2〜5年以上が多い) |
| 空室リスク | 高い(退去時に全フロアが空室になる) |
| 管理負担 | 低い(テナント数が少ない) |
ワンフロア設計は「少数の大型テナントを長期で確保できる立地・規模」で有利です。 ただし退去時の影響が大きく、次のテナントが見つかるまでの空室期間の収入ゼロリスクが高いのが弱点です。
分割フロア設計の収益特性
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 想定テナント | 中小規模の企業(5名〜50名規模) |
| 賃料単価 | やや高め(小区画は割高設定が可能) |
| 契約期間 | 短め(2〜3年が多い) |
| 空室リスク | 低い(1社退去しても他が継続) |
| 管理負担 | 高い(テナント数が多い) |
分割フロア設計は「中小規模のテナント需要が多い都市部」で有利です。 1社が退去しても他のテナントが継続するため、収入がゼロになるリスクが分散されます。
収益シミュレーション比較(延床300坪・S造・5階建て・有効貸床率80%)
ワンフロア設計(坪8,000円/月・1フロア1テナント)
| 項目 | 金額(年間) |
|---|---|
| 賃料収入(満室時・有効貸床240坪) | 約2,304万円 |
| 空室リスク(退去時10%控除) | ▲230万円 |
| 管理費・修繕積立 | ▲100万円 |
| 年間実質収益(融資前) | 約1,974万円 |
分割フロア設計(坪9,000円/月・1フロア3テナント)
| 項目 | 金額(年間) |
|---|---|
| 賃料収入(満室時・有効貸床220坪※共用部増加) | 約2,376万円 |
| 空室リスク(分散効果で5%控除) | ▲119万円 |
| 管理費・修繕積立(管理負担増) | ▲150万円 |
| 年間実質収益(融資前) | 約2,107万円 |
分割フロア設計の方が年間約130万円程度収益が高い計算になりますが、建設費が3,000万〜6,000万円高いため、その差額の回収に23〜46年かかる計算になります。立地・市場環境によってどちらが有利かは変わります。
4. 有効貸床率への影響
分割フロア設計では共用廊下・複数のトイレ・各テナントへのアクセス動線が必要になるため、ワンフロア設計と比べて有効貸床率が下がります。
| 設計方式 | 有効貸床率の目安 | 300坪ビルでの差 |
|---|---|---|
| ワンフロア設計 | 82〜88% | 約246〜264坪が貸付可能 |
| 分割フロア設計(2〜3テナント) | 75〜82% | 約225〜246坪が貸付可能 |
延床300坪のビルで有効貸床率が5%異なると、年間賃料収入で100万〜200万円の差が生じます。 分割フロア化による賃料単価の上昇と、有効貸床率の低下のどちらが大きいかを試算することが重要です。
5. 将来の変更コスト
建設後に設計方針を変更する場合のコスト比較も重要な判断基準です。
| 変更内容 | コスト目安 | 難易度 |
|---|---|---|
| ワンフロア→分割フロアへの変更(後付け) | 1フロアあたり500万〜2,000万円 | 中程度(空調・電気・給排水の追加工事) |
| 分割フロア→ワンフロアへの変更(撤去) | 1フロアあたり200万〜800万円 | 比較的容易(間仕切り撤去・設備統合) |
ワンフロア設計の方が後から分割への変更が容易ではないため、初期設計での判断が特に重要です。一方、分割フロアからワンフロアへの変更は比較的対応しやすいです。
6. テナント誘致への影響
設計方式はテナント誘致のしやすさにも影響します。
ワンフロア設計が向いているテナント業種
| 業種 | 理由 |
|---|---|
| 中規模オフィス(50〜200名) | 広い空間を一括で使いたい |
| コールセンター | 大人数のオープンスペースが必要 |
| クリエイティブ系・スタートアップ | フレキシブルなレイアウトを好む |
| 展示場・ショールーム | 広い連続空間が必要 |
分割フロア設計が向いているテナント業種
| 業種 | 理由 |
|---|---|
| 小規模オフィス(5〜30名) | 小さな区画で十分 |
| クリニック・医療施設 | 専用区画の独立性が必要 |
| 士業事務所(弁護士・税理士等) | プライバシーが必要 |
| 学習塾・スクール | 区画ごとに使用時間帯が異なる |
7. 立地・市場環境に応じた選び方
どちらの設計が適しているかは、ビルが建つ立地とターゲットとするテナント市場によって決まります。
| 立地・状況 | 推奨設計 | 理由 |
|---|---|---|
| 都市部・駅近・中小企業が多いエリア | 分割フロア | 小区画の需要が高く空室リスクを分散できる |
| 地方中核都市・大企業・官公庁が多いエリア | ワンフロア | 大型テナントの需要がある |
| テナントが事前に決まっている | テナントの要求仕様に合わせる | 需要が確実な場合は要件に最適化 |
| 自社利用(本社ビル等) | ワンフロア | 社内コミュニケーションと業務効率に有利 |
| 将来の用途変更を想定 | ワンフロア | 後から分割しやすい |
8. CM方式を活用した最適設計の実現
ワンフロアか分割フロアかの判断は、建設費・賃料収入・空室リスク・将来の改修コストを総合的に評価する必要があります。CM(コンストラクションマネジメント)方式を活用することで以下のメリットが得られます。
市場調査と設計方針の一体化
CMrが対象エリアの賃料水準・テナント需要・競合ビルの空室状況を調査し、ワンフロアか分割フロアかの選択を数値で判断できます。
収益シミュレーションの作成
両案の建設費・賃料収入・空室リスク・投資回収期間を比較したシミュレーションを作成し、発注者が数値に基づいて判断できます。
将来の変更を見越した設計管理
将来のフロア分割・統合に対応できる設備の先行配管・配線ルートの確保など、変更コストを最小化する設計を実現します。
分離発注によるコスト削減
建築・電気・空調・給排水を専門業者に分離発注することで、ゼネコン一括発注と比べて建設費を10〜15%削減できるケースがあります。
9. 発注者が計画前に確認すべきチェックリスト
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| ターゲットテナントの規模・業種 | 大型1社か小規模複数かを先に決める |
| 対象エリアの賃料・空室率調査 | ワンフロアと分割フロアどちらの需要が高いか |
| 有効貸床率の試算 | 両案の実際に貸せる面積を比較する |
| 建設費の差額試算 | 分割フロア化による追加コストを把握する |
| 収益シミュレーション | 両案の年間収益・投資回収期間を比較する |
| 将来の変更容易性 | 後からの設計変更コストを考慮する |
| 空調・電気の設計方針 | 個別制御か一括制御かを設計初期に確定 |
| 省エネ基準への適合 | 分割フロアは空調分散制御でBEI計算が複雑になる |
ワンフロアか分割フロアかは「テナント市場を先に調査して決める」
ワンフロア設計と分割フロア設計のどちらが優れているということはありません。対象エリアのテナント市場・ターゲットとする業種・空室リスクへの許容度・建設予算に応じて最適な選択肢が変わります。
- 分割フロア設計は建設費が10〜20%高くなるが空室リスクを分散できる
- ワンフロア設計は建設費が低いが退去時の空室リスクが高い
- 有効貸床率は分割フロアの方が5〜8%低くなる傾向がある
- 将来の変更コストはワンフロア→分割の方が高い(逆は比較的容易)
- テナントが事前に決まっている場合はその要求仕様に合わせた設計が最優先
オフィスビルの設計方針・ワンフロアと分割フロアの選択についてのご相談は、お気軽にお問い合わせください。市場調査・収益シミュレーション・設計から工事管理まで、発注者の立場でサポートいたします。
【重要事項】
本記事に記載している建設費・賃料・収益シミュレーションはあくまで一般的な目安であり、立地・仕様・市況によって大きく異なります。具体的な計画・収支シミュレーションについては必ず専門家にご相談ください。


