木造ビルは何階まで建てられるのか|法規・構造・建設費・発注者が知るべき現実的な選択肢

「木造ビルは3階建てまでしか建てられない」——そう思っている発注者は少なくありません。しかし、建築基準法の改正と耐火技術の進化により、この常識は大きく変わっています。

国内では既に地上11階建て(大林組・横浜市・2022年竣工)の純木造ビルが実現しており、さらに東京海上日動火災保険は丸の内に地上20階・高さ約100mの木造ハイブリッドビル(2028年竣工予定)を計画中です。

ただし「何階まで建てられるか」という問いへの正確な答えは、用途・防火地域・耐火仕様・構造方式によって異なります。「技術的には20階以上も可能だが、発注者として現実的に検討すべき選択肢は何か」を整理することが重要です。

本記事では、商業施設・テナントビルの建設を検討している発注者向けに、木造ビルの階数と法規の関係・構造方式の選択肢・建設費の目安・CM活用のポイントまで解説します。

1. 法規から見た「木造ビルの階数の上限」

木造ビルの建設可能な階数は、建築基準法が定める耐火性能の要求水準によって決まります。

耐火要件と階数の関係

建築基準法では、建物の用途・規模・立地(防火地域・準防火地域)に応じて「耐火建築物」か「準耐火建築物」かが求められます。

建物の条件必要な構造木造での対応
防火地域内・延床100㎡超または3階以上耐火建築物耐火木造(メンブレン型・燃えしろ設計)で対応可能
準防火地域内・4階以上または延床1,500㎡超耐火建築物同上
準防火地域内・3階以下・延床1,500㎡以下準耐火建築物準耐火木造で対応可能
防火・準防火地域外・3階以下一般建築物一般木造で対応可能
2022年建築基準法改正のポイント

2022年の建築基準法改正により、木造中高層ビルに求められる耐火要件が緩和され、木造によるビル建設のコストダウンと設計自由度が向上しました。

主な改正内容:

  • 最上階から5〜9階:必要耐火時間が「2時間」→「90分」に緩和
  • 最上階から15〜19階:必要耐火時間が「3時間」→「150分」に緩和

これにより、中高層木造ビルの被覆材を薄くできるようになり、コスト削減につながっています。

2. 構造方式別の階数の目安

木造ビルには複数の構造方式があり、方式によって実現可能な階数と建設コストが異なります。

構造方式概要適用階数の目安特徴
在来軸組工法(一般木造)伝統的な柱・梁の軸組構法2〜3階まで低コスト・設計自由度高い
2×4工法(ツーバイフォー)面で支える枠組壁工法3〜4階まで気密・断熱性に優れる
CLT工法直交集成板を壁・床・屋根に使用3〜11階以上大スパン・意匠性が高い
木造ハイブリッド(木+S造・RC造木材と鉄骨・コンクリートを組み合わせ6〜20階以上高層対応・コスト最適化が可能
耐火木造(メンブレン型)石膏ボード等で木材を被覆して耐火性能を確保4〜14階まで(認定取得が必要)耐火建築物として認定可能

発注者にとって現実的な選択肢は以下の通りです:

  • 3〜4階建て商業ビル:CLT工法または耐火木造で対応可能。比較的コストが把握しやすい。
  • 5〜9階建てテナントビル:木造ハイブリッド(木+S造)が主流。コスト・工期・設計自由度のバランスが良い。
  • 10階以上の高層ビル:大手ゼネコンの独自認定耐火技術が必要。設計・施工会社の選定が重要。

3. 木造ビルのメリットとデメリット

木造ビルのメリット

① CO₂排出量の削減・ESG対応
建設時のCO₂排出量は、同規模の鉄骨造オフィスビルと比較して約30%削減できると試算されています。ESG経営・脱炭素対応の観点から、テナント誘致にも有利に働くケースがあります。

② 軽量性による基礎・地盤工事コストの削減
CLTはRC造の約1/5の重量であるため、地盤改良・杭工事の規模を縮小できるケースがあります。初期費用の比較では躯体費用は木造が高くなりますが、基礎・地盤工事の削減分を合わせた総費用では拮抗するケースもあります。

③ 工期の短縮
CLT・集成材は工場でプレカットした部材を現場で組み立てるため、RC造に比べて現場での養生期間が不要となり工期を短縮できます。

④ 意匠性・ブランド力の向上
木の温かみを活かした内装・外観が差別化につながり、テナント誘致や入居者満足度向上に有効なケースがあります。

木造ビルのデメリット

① 設計・施工コストが高い
CLTや集成材は材料費が高く、耐火被覆の施工コストも加わります。また木造中高層に対応できる設計者・施工者がまだ限られており、競争原理が働きにくい状況があります。

② 設計者・施工者の選定が難しい
木造中高層ビルに対応できる設計事務所・ゼネコンはまだ限られています。特に耐火認定取得が必要な5階以上では、専門的な知識を持つ設計者の確保が課題になります。

③ 維持管理・修繕の注意点
木材は適切な防水・防湿処理が必要であり、RC造・S造と異なる維持管理が求められます。屋根・外壁の防水仕様と定期点検の計画を建設段階から組み込む必要があります。

4. 木造ビルとRC造・S造の建設費比較

木造ビルの建設費は、構造方式・階数・耐火仕様によって大きく変わります。

坪単価の目安比較(テナントビル・4〜6階建ての場合)
構造坪単価目安特徴
S造(鉄骨造)テナントビル90〜130万円/坪工期短め・汎用性高い・標準的
RC造テナントビル110〜150万円/坪遮音性・耐久性高い
木造ハイブリッド(木+S造)100〜140万円/坪S造とほぼ同等〜やや高め
CLT工法テナントビル120〜160万円/坪意匠性高い・耐火仕様でコスト増
耐火木造(4〜6階)110〜150万円/坪認定取得コストが含まれる

「木造は鉄骨造より安い」という認識は4階以上では正確ではありません。 CLT・耐火被覆・認定取得コストが加わるため、S造と同等〜やや高くなるケースが多いです。

ただし、以下の要因で総事業費が変わります:

比較項目木造のメリット木造のデメリット
地盤改良・基礎工事費軽量のため削減できるケースあり
躯体工事費CLT・耐火被覆でコスト増
工期短縮によりコスト削減設計・部材調達に時間がかかる場合あり
解体費木材は解体・廃材処理が容易
ESG・ブランド価値テナント誘致・賃料に有利な場合あり

5. 木造ビルの建設に向いているケース・向いていないケース

木造ビルが向いているケース
条件理由
3〜4階建てのテナントビル・クリニックビルコストと設計自由度のバランスが良い
ESG・脱炭素対応が経営課題の企業CO₂削減効果をブランドに活用できる
意匠性を重視したビル木の温かみがテナント誘致・施設価値に貢献
軟弱地盤エリアでの建設軽量のため地盤改良費を削減できる可能性
工期を短縮したいプロジェクトプレカット部材で現場工期を短縮
木造ビルが向いていないケース
条件理由
コストを最優先する5〜9階建てS造の方がトータルコストが低いケースが多い
設計・施工者の選択肢を広げたいプロジェクト対応できる専門家がまだ限られている
騒音・遮音が最重要の用途RC造の方が遮音性に優れる
維持管理の手間を最小化したいRC造・S造の方が維持管理が容易

6. 補助金制度の活用

国・自治体は木造中高層建築の普及を推進しており、複数の補助金制度が活用できます。

制度内容補助率の目安
民間建築物等における木材利用促進事業中高層木造建築の建設に対する補助(林野庁)工事費・木材調達費の一部
ZEB実証事業(環境省)ZEB Readyを達成する木造ビルに対する補助設備費の1/2〜2/3
自治体の木材利用促進補助金都道府県・市区町村独自の上乗せ補助自治体によって異なる

補助金は毎年度公募があり、交付決定前の着工は対象外になるため、建設スケジュールに申請期間を必ず組み込む必要があります。

7. CM方式を活用した木造ビル建設のメリット

木造中高層ビルの建設では、建築基準法の耐火要件・専門的な設計者の選定・補助金活用が複合するため、CM(コンストラクションマネジメント)方式の活用が特に有効です。

設計者・施工者の適切な選定
木造中高層に対応できる設計事務所・施工会社はまだ限られています。CMrが発注者の代理として複数の専門家を比較・選定し、最適なパートナーを見つけます。

耐火認定・確認申請の管理
4階以上の木造ビルでは耐火大臣認定の取得が必要になるケースがあります。CMrが認定取得スケジュールを確認申請・着工の工程に組み込みます。

コストの透明化
木造ビルは材料費・認定取得費・設計費が複雑に絡み合うため、分離発注で各費用を透明化し、予算超過を防ぎます。

S造・RC造・木造の総事業費比較
設計の初期段階で木造・S造・RC造の3案を総事業費・工期・維持管理費のトータルで比較し、発注者が最適な構造を選択できるよう整理します。

8. 発注者が計画前に確認すべきチェックリスト

確認項目内容
用途・規模・防火地域の確認必要な耐火性能のレベルを把握する
目標階数と構造方式の選定3階以下・4〜9階・10階以上で選択肢が変わる
木造vs S造vs RC造の総事業費比較躯体費だけでなく基礎・地盤・維持管理費を含めた総費用で比較
耐火大臣認定の要否確認4階以上では認定取得が必要になるケースがある
対応できる設計者・施工者の確認木造中高層に対応できる専門家は限られている
補助金活用の検討林野庁・環境省・自治体の補助金の公募スケジュールを確認
ESG・脱炭素の観点での評価テナント誘致・ブランド価値への貢献度を試算
維持管理計画の確認防水・防湿・定期点検の計画を建設段階から組み込む

木造ビルの「何階まで」は用途と仕様で決まる

木造ビルは在来工法の3階建てから、CLT工法の11階建て、木造ハイブリッドの20階建てまで、技術的には幅広い選択肢があります。

  • 3〜4階建ては木造テナントビルの現実的な主流。コストと設計自由度のバランスが良い
  • 5〜9階建ては木造ハイブリッド(木+S造)が現実的な選択肢
  • 10階以上は大手ゼネコンの独自耐火技術が必要。設計者・施工者の選定が鍵
  • 2022年の法改正で中高層木造のコスト負担が軽減されている
  • 木造ビルはS造・RC造と比べてコストが安いとは限らない。総事業費で比較することが重要
  • 補助金(林野庁・ZEB実証)を活用することで実質コストを削減できる

木造ビルの建設計画・構造選定についてのご相談は、お気軽にお問い合わせください。S造・RC造・木造の総事業費比較から設計者選定・補助金活用まで、発注者の立場でサポートいたします。

【重要事項】
本記事に記載している内容・費用はあくまで一般的な目安であり、建物の規模・用途・立地・設計仕様・時期によって大きく異なります。耐火認定の取得要件・補助金制度の内容は変更される場合があります。具体的な計画については必ず専門家にご確認ください。

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