2025年12月全面施行 改正建設業法 ― 商業施設プロジェクトにおいて発注者が押さえるべき実務ポイント ―
2025年12月、改正建設業法が全面施行されました。
本改正は、慢性的な人手不足、建設費高騰、長時間労働といった建設業界全体の構造課題に対応するために行われたものであり、「適正価格」「適正工期」を前提とした持続可能な事業環境の構築を目的としています。
商業施設建設においては、工期制約やコスト調整の難易度が高く、発注者・設計者・施工者間の調整負荷も大きいのが実情です。今回の法改正は、こうしたプロジェクト特性を持つ案件ほど、その影響を正しく理解しておく必要があります。
本記事では、商業施設の発注者支援を行うコンストラクション・マネジメントの視点から、改正建設業法の重要ポイントを整理します。
改正の背景|低価格・短工期を前提とした発注構造の限界
これまでの建設業界では、競争環境の中で過度なコスト削減や無理な工期設定が常態化しやすい構造がありました。特に商業施設では、開業時期が事業収支に直結するため、工期優先の意思決定がなされるケースも少なくありません。
しかしその結果、以下のような問題が顕在化してきました。
現場技術者の長時間労働と人材流出
実勢を反映しない工事金額による品質・安全リスク
資材価格変動に対する契約上の不透明さ
改正建設業法は、こうした前提そのものを見直し、発注段階から現実的な条件設定を行うことを制度面から求めています。
ポイント① 適正な見積り作成と不当に低い請負代金の抑制
改正法では、工事請負契約における見積りについて、材料費・労務費・現場管理費等の必要経費を適切に反映することが重要視されています。
社会通念上著しく低い労務費や材料費を前提とした契約は問題とされ、一定の場合には行政による指導・勧告の対象となります。
これは、単なる価格交渉の問題ではなく、プロジェクトの成立性そのものに関わる要素として位置づけられています。
商業施設においては、内装工事や設備工事の比重が高く、工程間の影響も大きいため、初期段階での見積精度と前提条件の整理がこれまで以上に重要になります。
ポイント② 原価割れ契約の是正と契約責任の明確化
今回の改正では、原価割れ契約に関する考え方が、発注者側だけでなく受注者側にも拡大されました。
受注者が競争を理由に無理な低価格で契約を締結する行為も、結果として業界全体の健全性を損なうものと位置づけられています。
これは発注者にとっても重要な視点です。
一見するとコスト削減につながるように見える契約条件が、後工程での追加費用や品質低下、工期遅延といった形で顕在化するリスクを内包しているためです。
CMの立場からは、価格の妥当性と工事条件の整合性を第三者的に確認する役割が、より一層重要になると考えられます。
ポイント③ 工期ダンピングの是正と労働環境への配慮
改正建設業法では、いわゆる「工期ダンピング」も明確に問題視されています。
無理な短工期は、現場の長時間労働や安全管理の形骸化につながり、結果としてプロジェクト全体のリスクを高めます。
今回の改正では、発注者だけでなく受注者側による非現実的な工期設定も抑制対象とされました。
商業施設においては、テナント調整や設備試運転など、建築工事以外の要素も多く、工期設定の合理性が事業成功の前提条件となります。
資材価格高騰への対応|事前共有と協議の仕組み
資材価格の急変や供給不安に対しては、「おそれ情報」として契約前に共有する仕組みが整理されました。これにより、受注者は必要に応じて請負代金の変更協議を求めることができ、発注者には誠実な協議が求められます。
これは、商業施設プロジェクトにおいて頻発する想定外コストの事後調整から、事前合意型のリスク管理へと転換する重要なポイントです。
CMの視点で見る改正建設業法の意義
今回の法改正は、単なる規制強化ではなく、発注者・設計者・施工者が共通の前提条件を持ち、合理的な意思決定を行うための土台整備と捉えることができます。
商業施設のように事業性と建設条件が密接に関わるプロジェクトでは、初期段階からコスト・工期・リスクを整理し、全体最適を図るCMの関与価値は、今後さらに高まっていくと考えられます。


